組織的犯罪対策法に反対する全国ネットワークよりの緊急声明(6/2)

1.与党による民主党案「丸呑み」は国会審議の軽視だ

 昨6月1日、与党は共謀罪法案について民主党案を「丸呑み」し、早期の委員会採決、成立を図ることとしたとされる。しかし、民主党案提出の4月27日以降、一貫して「条約違反である」として民主党案を批判してきたのは、政府(法務省・外務省)と与党(自民党・公明党)ではなかったのか。自民党は、民主党案について「条約に違反する内容であるばかりか、肝心の国民の安全や不安の解消に何の効果も及ぼさない、まったく不十分な内容」であるとするばかりでなく、「民主党の国会対応は、(中略)国民の不安を直視しない、国民に対して極めて不誠実な対応であるといわざるを得ません」(5月16日付「犯罪の国際化、組織化、高度情報化に対処する刑法等改正案(条約刑法)について」)と一刀両断し、公明党も「民主党は条約締結を承認しながら条約に反する修正案を出したことになる。自己矛盾ではないか」(5月1日付公明新聞「主張」)などと批判し続けてきた。これまで多くの時間を費やしてきた条約との整合性の議論は一体何であったのか。
 昨日のテレビ朝日「報道ステーション」では自民党幹部のコメントとして「今後修正できるよう付帯決議するつもりだ」という発言が採り上げられていた。どんな形であれ共謀罪をまず創設し、秋の臨時国会で数に物を言わせて法改正すれば十分だというのであろうが、この発言が今回の与党の「丸呑み」の真意であるならば、国会の審議を完全に軽視した公党として、立法府として許されざる態度であるといわざるをえない。

2.共謀罪法案への疑念は強まるばかりだ

 国会審議の中で共謀罪への疑問がますます深まり、市民に懸念が広がっていることについて、与党および民主党はどのように考えるのかという問題がある。Yahoo! JAPANやLivedoorなどのポータルサイトでのインターネット投票や、TBS、日本テレビの世論調査では、与党修正案にも野党修正案にも賛成の意見は少なく、また今国会での成立を急ぐべきでないという結果が公表されている。こうした世論に対し、どのように応えるのか。
 さらに、その多くが秘匿されたままの国連条約の制定経過はどうであったのか、民主党案で果たして条約の締結が可能なのか(朝日新聞は「政府・与党内では、民主党案では条約の批准はできないとの見方が強い。与党はとりあえず今国会で改正法を成立させ、次の国会で条約の要件にあわせて再修正を図る構えだ」と報じている)、条約が求める組織的な犯罪集団への参加の犯罪化義務について諸国の法整備の内容はどのようなものなのか等、はっきりとした回答が政府から得られていない。また、民主党が提示した8項目の「共謀罪の課題」について運用を含めた詳細についての議論は全く行われていない。現在でもなお法案審議は全く深まっていないのであり、その責任はあげて政府・法務省の側にある。

3.民主党案でも共謀罪法案の問題点は解決しない

 与党が丸呑みするという民主党案の理論的な問題点を指摘したい。確かに、民主党案は、組織的犯罪処罰法2条の団体の定義を「犯罪を実行することを主たる目的又は活動とする多数人の継続的結合体」とし、かつ同6条の2において、行為について国連条約3条が求める越境的性質を有するものに限り、「団体の活動」を「組織的犯罪集団の活動」とし、かつ処罰条件として「共謀に係る犯罪の予備をした場合」に処罰できるとしており、また、自首減免の対象犯罪も「死刑又は無期若しくは長期五年を超える懲役若しくは禁錮を定める罪」とするなど、政府案・与党修正案よりもその処罰範囲を狭くしようとしている。
 しかしながら、@そもそも「犯罪を実行することを主たる目的又は活動とする」ことについては、与党修正案の「団体の活動(その共同の目的)」同様、捜査当局の判断に待つところが大きく、本質的な限定とは言い難い。また、団体が2人以上であることについては何らの修正を行っていないのだから、依然、労働組合、市民団体、企業などさまざまな団体への適用は可能というべきであろう。Aまた、越境性要件の付与については、条約3条2(d)が「一の国において行われるものであるが、他の国に実質的な影響を及ぼす場合」としていることから、国内完結犯罪についても適用がありうると解釈される。ヒト・モノ・カネ・情報のいずれもがグローバル化した社会において、「他の国に実質的な影響を及ぼす場合」という事態は、例えば金融犯罪や詐欺・横領・背任等の財産犯など、容易に想定できるだろう。また、条約3条2(a)から(c)は二国以上に跨って犯罪が行われる場合を想定しているが、グローバル化が進展した今日、あらゆる団体が二国以上で活動を行う可能性を有しているといっても過言ではない。さらに、人権団体などグローバルに活動することが当然予定されている団体が、政府が「人権後進国」と批判してやまない一部諸国において「犯罪団体」として見られていることについてどのように考えればいいのか。国境を越えて活動する人権NGOは越境組織犯罪集団なのか。B次に、処罰条件に予備的なものを盛り込み、さらにこれを構成要件化するということであるが、そもそも共謀罪の共謀概念について何らの制限的な修正を行わないところで、様々な要件を付することに大きな意味はない。現行捜査実務および裁判実務で共謀概念が融通無碍に用いられ、極めて拡張した概念となっていることへの批判は共謀共同正犯肯定論者のなかにも強く存在している。立法府としては、制定法に拠らない解釈や判例によって、現行捜査実務や裁判実務が規律されていることを厳粛に受け止め、弛緩しきった「共謀」概念を放棄すべきである。Cさらに捜査との関連で言えば、極めて曖昧な共謀概念を中核とする共謀罪が捜査当局にどれほど絶大な権限を与えることになるのかについて、国会議員は本当に理解しているのであろうか。最終的に本人の辞職により立件には至らなかったが、ウォーターゲート事件に絡みニクソン米大統領(当時)が問擬されたのが共謀罪にほかならないことを想起すべきである。D対象犯罪ついても、民主党案は政府案・与党案に比べ半減するとのことであるが、そもそも法定刑で一律に共謀罪を新設するという条約の発想が、各国の法定刑が歴史的社会的背景を反映して様々であるという事情を無視したものであり(日本の刑法の法定刑が他国に比べ非常に広いことには歴史的な理由がある)、失当であるといわざるをえない。また、法定刑については昨今の厳罰化論議のなかで容易に引上げがなされる傾向にあり、共謀罪の対象犯罪は増えることはあっても減ることはない。E自首減免規定についても、そもそも自首とは日本固有の制度であり、条約が求めているものではない。自首減免の対象犯罪を限定すること自体は特段捜査当局の共謀罪の濫用を規制する手段とはならない。

4.共謀罪創設は絶対に認められない

以上のように、与党が民主党案を丸飲みし共謀罪が創設したしても、実行行為のない段階での処罰を広く認める共謀罪の本質的な問題点は何ら解決せず、憲法上の思想・良心の自由、表現の自由、結社の自由等を侵害し、近代刑法原則を根底から覆すものとなるという批判は免れない。
 共謀罪法案については、法案審議を通じて明らかとなった問題点をさらに論議し、日本国憲法を頂点とする日本の法体系に馴染まないものであれば、そもそもの立法を放棄するという態度も念頭に置いた姿勢が、国権の最高機関たる立法府には望まれる。

よって、審議を尽くさず民主党案を「丸呑み」することで基本的人権に関わる刑事法を立法することは憲政の常道に照らしても許されるものではない。

共謀罪法案は政府案・与党案・民主党案ともに廃案にすべきである。
以上

2006年6月2日                 組織的犯罪対策法に反対する全国ネットワーク