法制審議会刑事法(国連国際組織犯罪条約関係)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  平成14年11月1日(金)  自 午後1時32分                        至 午後4時33分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題    いわゆる国連国際組織犯罪条約の締結に伴う罰則等の整備について 第4 議 事 (次のとおり) 議    事 ● お待たせいたしました。ただいまから,法制審議会刑事法(国連国際組織犯罪条約関係)部会の第3回の会議を開催いたします。 ● 本日は,前回に引き続いて要綱(骨子)第三の「犯罪収益規制等」の部分から議論を始めたいと思います。要綱第三の中には,一から三まで三つの小柱が立っておりますので,原則として一,二,三という順序で一つずつ区切って議論をしたいと思います。その議論が一通り終わりましたならば,要綱第四の「国外犯処罰」を議論し,最後に時間があれば,これまでに議論し残したと思われる点がございましたならば議論をしていただきたいと思います。  本日の議論の進め方,ただいま申しましたようなやり方でよろしゅうございますか。  別段御異議もないようでありますので,今申しましたような順序で進めることにいたします。  それでは,要綱(骨子)第三の「犯罪収益規制等」の中の一の犯罪収益の前提犯罪に関連する問題を議論したいと存じます。いつものようにどなたからでも結構でございますので,御発言をよろしくお願いいたします。 ● 前提犯罪の問題については,組織犯罪対策法を議論したときに,かなり活発な議論が行われまして,当初の事務当局の方から出された御提案は5年以上という御提案であったものを,いろいろ議論をして,やはり前提犯罪は別表方式を採るべきではないかということで,別表方式をとったという経緯があるわけですね。それが5年前だったと思うのですが,そのときそういう議論をしていて,今回一挙に広がるということになってしまうのですが,条約によるのだというふうになってしまうと議論ができないものですからなかなか難しいのですが,前回別表方式にしたのは,やはり犯罪収益に関する前提犯罪というものについては組織犯罪的なものに絞っていこうではないかという議論があったかと私は考えているのですが,そういう立場からしますと,今回一挙に広げるということは,逆に言うと何でもかんでも犯罪収益はだめだというのと同じことになってしまうのではないかというふうに思うものですから,その辺の工夫を何らか今回できないのかと考えているのですが,その辺はいかがでしょうか。 ● まず,事務当局の方で今回のような形の案を出したいきさつにつきまして,御説明を申し上げたいと思います。  ただいま○○委員の方から御指摘がございましたように,約5,6年ほど前,この法制審議会におきまして組織犯罪対策の御審議をいただいたときに,事務当局の方で出しましたのは,これはあくまでたたき台としての参考試案ではございますけれども,原則は5年の懲役以上のもの,あとプラスアルファ,特徴的なものということで出されておったところ,どうしても急激な対象の拡大になるのではないかという御懸念がございましたことから,組織犯罪対策の観点から明白なものに限定していくというような方向でその前提犯罪のピックアップが行われたというように承知しておるところでございます。  ところで,前回の議論がなされたときの国際的な動向については,まず,マネー・ローンダリングの前提犯罪につきましての国際的な動向の流れを大ざっぱに復習させていただきますと,そもそも国際的な規模でマネー・ローンダリング規制が定着いたしましたのは1988年のいわゆる麻薬新条約でございます。このときは,薬物犯罪を対象犯罪とする,それについてマネー・ローンダリング規制を義務とするという枠組みだったのでございますが,その2年後にはFATFの40の勧告で,前提犯罪を重大犯罪に拡大することの考慮が求められております。更に6年ほどたちました1996年には,FATFの40の勧告が改訂されまして,そこでは前提犯罪を重大犯罪に拡大するという勧告になったわけでございます。前回の法制審議会は,この辺りの段階で行われたものでございまして,その時点での国際的な枠組みとしては,FATFという作業グループの勧告のレベルであり,そこで求められていた重大犯罪の範囲は,各国が定めるという内容になっておったという状況でございました。  ところが,その後数年を経まして,本TOC条約によりまして,重大犯罪は各国が定めるのではなくて,4年以上の自由刑又はそれより重い犯罪ということで明確に示された上に,更にこれを原則として前提犯罪に含めるという義務が課されてきたということでございまして,前回の法制審議会の議論のときとは国際的な枠組みが大きく変動してきておるところでございます。  確かに条約は,6条2の(b)のところを御覧いただきますとお分かりになりますように,原則的にはすべての重大な犯罪と,この条約上犯罪化が求められております共謀,腐敗,司法妨害等ですが,それらを前提犯罪に含めるということが原則的な義務とされつつ,他方で列記方式をとるということの許容性も言及しておるところでございまして,扱いとしては例外的になろうかと思いますが,組織的な犯罪集団が関連する犯罪というものを包括的に列記に含めれば,列記方式も許容されるということになっておるわけでございます。  そこで,今回諮問するに当たりまして,列記方式をとるべきかどうかというところも検討したわけでございますけれども,現在の現行法の別表がどのような基準で作られたかといいますと,要するに死刑,無期又は5年以上の懲役が定められている犯罪の中でおおむね四つの類型,一つは極めて重大な犯罪,二つ目は暴力団の資金源犯罪など,犯罪組織によって多額の収益を獲得するために職業的,反復的に実行されると認められる犯罪,三つ目は,合法的な経済活動の周辺にあって,多額の犯罪収益を伴う犯罪,四つ目は諸外国において広くマネー・ローンダリングの前提犯罪とされている犯罪と同種のもの,こういう枠組みでピックアップされてきたわけでございますが,現実に資金源犯罪になっておるとかいうことの観点から,あるいはそれを基本としてピックアップしていた関係で,ある程度限定的になっております。したがって,その中には組織犯罪の関連が容易に想定されるのに含まれていないものも数多くあるということでありまして,例えば被拘禁者奪取でありますとか騒乱,往来妨害致死,偽証,強姦,電子計算機損壊業務妨害,文書毀棄,刑法犯で申しましても例えばこのようなものは別表から除かれておるところでございまして,組織犯罪との関連性をなるべく広く拾おうという条約の趣旨からいきますと,現在の別表ではこの条約の列記方式の要求を満たしていないことは明らかであろうと考えたところでございます。  そういたしますと,では,それをどのように広げていくかという点でございますけれども,これはマネー・ローンダリング規制の趣旨にかんがみれば,組織的な犯罪集団がおよそ関連しないようなものを除くのはいいだろうと,列記から落とすのは許容されると思いますけれども,組織的な犯罪集団の関連性が想定できるものにつきましては,これは当該リストに含めるべきである,これが条約の趣旨の大原則だろうと考えたところでございます。  そこで,そのような新たな別表を作る基準というものが容易に定立できるかといいますと,それがなかなか困難でございまして,現行法の別表で用いられていた基準をある程度緩めて広めにとっていけば,結局のところ今回御提示しておるものと同じような水準に達してしまうのではないかと考えられました。例えば国際的なマネー・ローンダリングの前提犯罪の情勢につきましても,イギリス,フランス,カナダなどはもう全面的に重罪・軽罪の原則全部を対象にしておるということもございますし,別表方式のこの条約のただし書がつけられましたのはアメリカの存在が非常に影響しておるわけでございますが,アメリカも担当者の話によれば,95%はカバーしておると言っているような状況でございまして,要するに広い前提犯罪を持つ諸外国に倣えば,我が国としても原則的には法定刑の基準ですべてを対象にしてしまっていいのではなかろうかと考えられるわけであります。  そうすると,何か余計なものが入ってこないかという懸念が他方であるわけですが,我が国の組織犯罪処罰法は,犯罪収益の定義のところ,2条2項の1号でございますけれども,「財産上の不正な利益を得る目的で犯した罪」という要件が入っております。これは,条約上明示的には要求されていないところでございます。このような目的で犯したものという限定が加わることによって,マネー・ローンダリング規制とは関係ないものというのは具体的な事案の適用場面においておのずと全部落ちていくだろうと,そうすると一見対象犯罪がかなり広いレベルに達するように見えますけれども,その実態において不都合は特に生じないだろうと考えられるのです。  おおむねこのようなことをあれこれ考慮いたしまして,諮問の段階におきましては,法定刑を基準とした一般的な形で前提犯罪を構成するということを御提案するに至ったという次第でございます。 ● ただいまの背景事情等を含めた御説明につきまして,御質問その他,御自由に御発言ください。 ● 今の質問に関係するのですが,条約の中で重大犯罪をどうするかということがかなり議論になったかに聞いているのですね。特に日本の場合について言えば,法定刑の幅が非常に広いので,いわゆる欧米諸国においては重大犯罪とならないものも今回入ってくる可能性が捨て切れないのではないかと私は考えているのですが,そのあたりの議論,もし分かっていれば御紹介いただきたいと思うのですが。 ● 日本において法定刑の幅がどういうものであるかという議論のところの詳細は,ちょっと私,今把握しておらないところでございます。しかしながら,前提犯罪をどのように構成するかという点につきましては,条約の審議過程でもかなりいろいろな議論があったということは確かでございまして,要するにイギリス,フランスが一方の雄でございまして,当然全部だという主張を一貫してしておったところでございますが,他方でアメリカの方は,立法の伝統からして列記しておりまして,それでほとんどのものはカバーしておるのだと,今更それを一般的に直すのは大変困難であると,最後は,列挙方式を残してくれなければ署名も致しかねるぐらいまで強い態度に出まして,結局その間をとる形で関連する犯罪を包括的に列記すれば別表方式も許すという形で最終的な妥協が得られておると,大きな流れとしては,そのようなことであったと理解しているところでございます。 ● 若干補足をいたしますと,私の承知しております範囲で申し上げますと,条約の策定の議論の過程におきまして,重大犯罪をどのような範囲のものにするかという議論は確かにございました。国によって何が重大犯罪なのか,あるいはそれぞれの国で重大犯罪と定義されているものがあるのかないのかといったことですとか,今,御指摘にありましたように,法定刑を基準といたしましても,どのような犯罪がその法定刑の基準に対応するのかというのは国によって違うではないかという議論もございました。ただ,そういう差はもちろんあるわけでありますけれども,基本的に罪の重さというのはやはりそれぞれの国の法律で各犯罪について定められている法定刑というものを基準にして線を引かざるを得ないのではないかという議論が大勢になったということでございます。  その線引きについても,拘禁刑で何年以上のものとすべきかという点も議論になりまして,3年と主張する国もございましたし,5年と主張する国もございました。そういった中で,最終的にその議論に参加している国の間で4年を基準にしようということで合意を見るに至ったということでございます。 ● ○○幹事の方でおっしゃいました,我が国の場合,法定刑の幅がすごく広いのではないかという点につきましては,確かに例えばイギリス,アメリカなんかもそうでございましょうけれども,1級殺人,これはかつて死刑しかなかった,その意味では幅のないものもございますけれども,実際御覧いただきますと,アメリカの連邦法にいたしましても,ヨーロッパの国々におきましても,日本とそういう意味で同じような幅のある法定刑が決められているのではないかと考えておりますが。 ● いただいた資料で今のことに関連してなのですが,前提犯罪の資料,第1回会議のときに配布していただいて,諸外国の例が出されているのですが,このマネー・ローンダリングの前提犯罪では,アメリカがかなり具体的に,相当細かいですけれども列挙方式になっていて,イギリスは相当広いですが,ドイツは重罪という形で短期1年以上の自由刑に当たる罪は包括的に規定されていますが,ほかのものは,これを見ている限りは列挙方式のような感じがするのですね。それからフランスも,重罪と軽罪となって,軽罪の方は長期10年以下の拘禁刑で罰せられる罪等,「等」と書いてあるのでちょっとフランスのことは知らないので分かりませんが,どうもこういうのを見ていますと,少し我が国でもこの前提犯罪一挙に4年以上という形で広げるのではなくて,列挙方式をかなり大きく広げていくという工夫もできるのではないか,とにかく5年前に議論をして列挙方式を採ろうというふうにしたというのは一つの見識だったと思うので,その方向性は今急にやめるというのではなくて,維持していくということが必要なのではないかというふうに私は思うのです。その辺,何か工夫ができないかなと思って,先ほどちょっと御質問したのですが。もう無理だというお考えなのでしょうか。 ● まず前提として,外国法に関する御指摘について若干補足させていただきたいと思いますが,フランスの軽罪は10年以下の拘禁刑等,「等」というのは段階が10年とか7年,5年だとかとなっている意味で「等」ということでありまして,要するにこの条約の言っている4年以上の重大犯罪はすべて軽罪の中に含まれております。そういう意味で,重罪・軽罪で,違警罪を除く全部でありますから,そういう意味ではイギリスと同じで重大犯罪は全部,フランスも全部無条件でという御理解をいただきたいと思います。  それから,ドイツのリストですが,一番上の1行目の重罪は全部であると。これは短期1年以上でございます。それから,それ以下のところでマネー・ローンダリングに恐らく特有的な犯罪がずらずら具体的に挙げられていて,最後のところで,これはやや読みにくい条文になってしまったのですが,要するに犯罪団体の構成員によって犯された軽罪とつながるわけでございます。したがいまして,ドイツは犯罪団体の罪がございますので,その団体の構成員が犯した軽罪というふうな包括条項を設けることによって,組織的犯罪との関連性,軽い罪は一応関連付けているという説明になるのかなとは思うのですが,ただ他方で,構成員だけだというのはかなり狭いのじゃないかなという印象もございまして,例えば構成員じゃなくても犯罪団体にいろいろな支援者等あるわけでございます。日本風にいきますと準構成員みたいなものから,いわゆるシンパと言われる人々までいろいろございまして,そのようなものはこの構成員の定義に入ってこないはずですので,相当狭い前提犯罪になっているような印象がありまして,ドイツがこうだから日本もこれでいいと,そう簡単に言えるかというと,ちょっとここは慎重に検討すべきかなと,国際的な情勢からいけば,必ずしも主流とは言い難いだろうという点がございます。  それから,前の法制審議会で確かに前提犯罪を一定の基準で選び出すということで現在の別表ができておるわけでございまして,今回はその前提の選び出した基準を更に国際情勢を踏まえて拡大していって,もう少し広い何か前提犯罪基準ができないかというようなことも考えてはみたのでございますけれども,結局のところ,組織的犯罪集団というのは金儲けのためにはどんな犯罪をするのか分からないという基本的なところがございますのと,そういたしますと例えば人の生命・身体に関連する犯罪でありますとか,財産に関連する犯罪でございますれば,組織的犯罪集団が組織の維持のため,あるいは報酬の目的で関連するということは大体想定できてしまうわけでございます。そのような観点で,今回4年以上の罪に当たる五百何十の規定を端からずっと点検もいたしましたが,これはどうかなと首をひねるものがごく少しですが確かにないわけではないのでございますね。  一例を挙げますと,例えば刑法ですと消火妨害とかいうのがございまして,これは火災の際に消火用の物を隠匿したなどというものでありまして,当該犯罪が偶然の機会に行われるわけでありますので,これは犯罪収益規制にかける必要がいかほどあるのかなという疑念があるわけでございます。しかしながら,その点は最初に申し上げました「不正の利益を得る目的で犯した」という要件でおのずとはじかれていってしまうものでございますので,あるいはやくざ者が自分で火をつけてその消火を妨害するということがあれば,それは火をつけた本体の方,放火の方で全部賄えるわけでございますので,そういう意味でそのような偶然の機会に関する犯罪,これは対象にする必要はないだろうなと思われるようなものにつきましては,包括的な不正の利益を得る目的のところでおのずと消えていくということで,結局新たな基準で列挙を作るということはなかなか困難ではないか,しかし,包括条項といいますか,不正の利益を得る目的の条項によっておのずと不当なものははじかれていくので,不当な結論も出てこないのじゃないかなという考えに至っておるということであります。 ● 今の点に関連してお伺いしたいのですけれども,4年以上ということですと刑法犯の中では業務上過失が入ってくるかと思いますけれども,これは先ほどの不正な利益を得る目的というところで外れるというふうにお考えなのか,あるいは業務上過失についても不正な利益を得る目的ということはあり得ると,あり得て,かつ,やはり入れておくべきであるというふうにお考えなのか,その点お聞かせいただけますでしょうか。 ● 現在,重大な犯罪に相当する犯罪の規定が五百数十ございますが,その中で過失犯に当たるものが,今,○○幹事から御指摘のありました業務上過失致死傷罪のほかに,あと二つございまして,合計三つあるわけでございますが,過失犯につきましては,過失行為のとらえ方等々によりましていろいろな考え方はあろうかとは思いますが,一応犯罪であって,その犯罪行為の遂行によって利益が生ずるということもあり得るだろうと思うわけでございます。  問題は,その「財産上不正な利益を得る目的」の「不正」のところの解釈がどうかということはあろうかと思いますが,不正というのは一種の評価概念でございまして,故意犯であってもおれは不正だと思っていないといったらそれで通るというのはおかしいわけでございまして,これは客観的に不正な利益と認められることであれば足りるということからいたしますと,過失犯であっても財産上不正な利益を得る目的で犯した犯罪と言える場合があり得るかなとは思います。  ただ,過失犯の場合は,これが通常組織的な犯罪集団との関連性があるかというと,普通は余りないのじゃないかなとか,犯罪収益が通常伴って生じている犯罪かというと,これはいかがかなという感想も率直なところございまして,過失犯を前提犯罪としてどのように取り扱うべきかにつきましては,是非諸先生方の御意見等も伺いながら,また考えていくべきかと思っております。 ● 今のに追加いたしますと,このリスト方式の在り方につきましては,G8の中では,カナダがもう本条約を締結しているわけでございますけれども,カナダはリスト方式をやめまして,正式起訴可能犯罪すべてを前提犯罪にしたということではございます。  過失犯の点につきましては,私の記憶ではアメリカの司法省の担当の方だったでしょうか,重罪全てを前提犯罪にしてしまったときに,ごく一部漏れるものがあって,その典型が失火罪で,どうするか困っておられたような記憶がありますので,そこはアメリカはアメリカの事情かもしれませんが,その意味で過失犯につきましては別途の考え方があるのかもしれません。 ● 今の質問等に関連するのですが,今の御議論を聞いていますと,重大犯罪というのは一応定義として4年以上とありますけれども,それぞれの国において,例えば今回の過失犯のようなものとか,さっきの消火妨害とか,そういったものを除外することは条約で認められる形の解釈ができるのでしょうか。 ● それは,6条2の(b)の後段の方で,列記方式をとる国においては組織的犯罪集団との関連性を包括的に列記に含めておればよいとされているので,その包括的な列記のところで,関連しないものは掲げなくてもいいという考え方はできるわけでございます。 ● 刑法というのは,先ごろ口語化されて,現代文で書かれたりなんかしているのですが,懲役何年以上という形のもので列記されますと,どれが入っているのかというのは個別的に条文を見ないと分からないという形になります。もともと刑法典が現代語化されたのには,分かりやすくするという要点があったと思うので,私としてはやはり列記方式をとる形によって一目に分かるような形にするのが国民に分かりやすい刑法典の在り方ではないかと思っているのですが,その点いかがでしょうか。 ● 御説ごもっともで,そのとおりだとも思いますが,しかし他面では,お配りいたしました重大犯罪の資料を御覧いただくと分かりますように,配列の仕方によってはこれが入っているかどうか探すのがとても大変であって,むしろ懲役5年なら入るとした方がよほど分かりやすいということもあるかなと思っておりまして,一概にどちらが分かりやすいかというのはいろいろ御意見があり得るところかと思っております。 ● 今までの御議論を伺っての感想ですが,組織的犯罪処罰法の審議をしておりましたときに,議論の末に別表方式に落ち着いたということは○○委員のお話のとおりであります。  その理由ですけれども,恐らく二つあったと思います。一つは,別表方式をとることによって,そこに取り上げる犯罪の一つ一つをセレクトする,注意深く選択できるのではないかというのが一点。それからもう一つは,その方が国民に分かりやすいだろう,罪名を明示して列挙した方がよかろうということでありまして,今ちょうどこの二点が○○幹事,○○幹事の御意見にそのまま現れてきていると思います。  ただ,この組織的犯罪処罰法が成立して,実際に作られた別表を見ますと,非常に項目が多くて,それは今,○○幹事が言われましたとおり,果たして分かりよくなったのかという疑問は残ります。先ほど第一の要請,第二の要請という形で申しましたが,この二つはどうも矛盾してきたのではないかという気がしていたところでございます。今回の4年以上というような話になりますと,別表は恐らくまた非常に長いものになるであろうと思いますので,分かりやすさという点から別表を支持する理由は乏しくなってきているのではないか,しかし一つ一つセレクトして,過失犯も含めていいのかというような角度からの御議論は,なお意味があると思います。 ● どなたか御意見ございましたら,是非お聞かせください。 ● 今,○○関係官の方からお話がございました点の前半部分の,一つ一つをセレクトしていくという点につきましては,先ほど○○幹事の方から御説明いたしましたけれども,当時,組対法で選ぼうとされたメルクマールと申しますか,その基準では,条約の要請を満たさなくなる。その意味で,本当に明らかに関係ないと言えるようなものを,対外的にもきちんと説明できるような犯罪の外し方をどのように考えるかということだろうということで,一つは先ほど過失犯についてどう考えるかと,これが一番典型であろうとは思いますが,御提案かというふうに受けとめております。 ● 過失犯の実務をやっておりますと,これが当たるかどうかはともかく,あり得るとすれば,例えば交通事故で,たまたま死んだのが別の抗争対立する暴力団の幹部であった,非常によくやったということで報酬を得るというようなことが,あり得るということを考えると,それが不正の利益,ここの要求に当たるかどうかは別としても,一応形としてはあり得るのかなということが直感的には浮かぶというのが一つです。  それを載せるかどうかは別としても,ともかくおよそ関係がないということになり得るかといったら,そうはいかないだろうという感じはいたしますね。 ● 現在の御議論とやや関連するかと思うのですが,第三の一に1,2とありまして,今は主として2の方の御議論を伺ってきましたけれども,1の方の条約第何条云々という部分,この点は法律になりますときはこのとおりではなくて,いわば別表的に書き分けるということになるのかと思いますが,それでよろしいのでしょうか。 ● 要綱(骨子)の第三の一の1の部分につきましては,第1回目の部会で配布いたしました資料の2番のところの「犯罪化義務に対応する犯罪について」という資料で,具体的に対応する罪のリストを掲げておるところでございます。したがいまして,実際にこれを法文化するに当たりましては,この罪が法律上明示されることになるわけでありまして,それが別表の形になるのか各号列記でおさまるのかというのは,これは立法の技術上の問題ということになりますが,いずれにしてもそれがこの条約何条に対応するという形ではなく,何々法何条の罪とか,そういう形で明示されることは確かでございます。 ● そうすると,これは本質的な事柄ではありませんけれども,1に当たる部分と2に当たる部分が形の上で違うということになりましょうか。1の方はひとまず列挙方式,2の方は包括的に懲役4年で切る,こういうことですね。 ● 若干補足させていただきますと,現在の別表の中には,典型的な暴力団資金源犯罪であるなどの理由によって,懲役4年に達していない,3年等の罪も実はある程度入っております。わいせつとか風紀関係のものでございますとか,株主の権利行使に関する商法違反とか,ですね。そのようなもの自体は,そういう積極的な理由で前提犯罪化されておりますので,この条約締結に伴う改正によっても残しておくのが相当であろうと思われますので,その意味でこの条約上の重大犯罪に当たらないで現在の別表にあるもの自体はやはり残す,それは別表の形になる可能性もまた十分にある。そういうことで,別表がある程度残るのは不可避であるということは御指摘のとおりでございます。 ● 端的に申し上げまして,条約上規定された犯罪につきましては,必ず前提犯罪にしなければいけない,したがいましてそのときに,例えば法定刑,長期何年以上ということで規定しました場合に,それから落ちこぼれた類型については明記しなければならないということでございます。 ● いかがでしょうか。 ● 今回の犯罪収益規制については,一応中の要件で絞れるということで,仮に前提犯罪が広がっていても限定できるのではないかというふうなお話があったのですが,過失犯も含めて,事務当局の方で,ここら辺は外してもいい,あるいはこれは灰色というような形の分類分けはされたのでしょうか。 ● 事務作業としてはもちろんやったわけでございまして,その中でまず一番最初に関係ないと思ったのは,最初に申し上げました火災の際とか,あるいは航空法で,機長が緊急事態において乗客の救助を尽くさなかった罪みたいなものがございまして,いわゆる偶然の事情に左右される犯罪,それが4規定ぐらいございます。  もう一つが過失犯類型でありまして,それが3規定ぐらいあります。  その他につきましては,色分けをする中では,結局報酬目的で,あるいは利得目的で行う可能性は十分想定できるというものばかりになってしまうということでございます。  もう一つ,極めて重大な犯罪,死刑とか無期等も入っているものは当然,ドイツでも重罪で入れているという意味で,国際的にそういうのがのけられているところはないという意味では含めるべきことになります。  そういたしますと,結局問題になり得るのは,今申し上げた程度かなと思っております。個別に見ますと,もう少しこれはどうかというものが若干出るかもしれませんけれども,基本的に大きな,類型的にこれは外れそうだというものはありませんでした。 ● いかがでしょうか,一について。 ● 例えば,今度過失犯を除くという形をとった場合には,これは列挙方式にせずにできるのでしょうか。 ● 恐らく,列挙方式といっても,除くものがそれだけであるということになりますと,逆に言えば列挙するとしたら除くものを列挙するというやり方はあり得るかと思いますが,ただ過失犯という犯罪の性質で除くのであれば,別表を作るまでもなく,むしろ本文で除いた方が汎用性がありますというか,将来的にそのような重大犯罪たる過失犯が生じたときに自動的に抜けていくわけでございますので,立法技術的にはそっちの方が好ましいかなという感じがいたします。 ● 今のことに関連してですが,条約の第6条2項のことなのですが,(b)のところで列挙方式をしている場合には,「少なくとも,その列記には,組織的な犯罪集団が関連する犯罪を包括的に含める。」と書かれているのですが,この「組織的な犯罪集団が関連する犯罪」というのは,どういうものをこの条約では意味しているのか,教えていただきたいのですが。 ● ただいまの御質問につきましては,条約上明確な定義というものはございません。その点につきましては条約の審議経過から推測するしかないわけでございますが,組織的犯罪集団との関係を意味する用語としては,共謀罪のところでも出てまいりましたが,組織的犯罪集団が「関与する」という概念がございまして,これは英語ですとinvolvingという言葉を使っております。それに対しまして,マネー・ローンダリングの「関連する」はassociated withという言葉になっておりまして,用語が明らかに使い分けられております。  そして,この審議経過に照らしますと,involvingで限定するという案が出されたのですが,それが否定されて,それでは狭過ぎるという観点で否定されたと思われますけれども,限定なしで全部だという案と,そのように限定するのだという案の折衷的な形で最終的におさまってきているという経過に照らしますと,associated withというのは,involvingよりは相当広いものを指しているのだろうというふうに考えられるところでございます。  条約の観点から,どこまでそれが意味するのかというのはなかなか明確には申し上げられませんが,ただ最初に申し上げました国際的に前提犯罪を拡大する方向にずっと流れてきておるということの背景を考えますに,これは結局組織的な犯罪集団というものは自らの組織の維持・拡大のために常に財産上の利益,不正な利益が得られることを求めて,それが得られる可能性があるものは何でもやる,そしてその収益を組織の維持拡大に用いていく,そのようなことがあるために前提犯罪の一層の拡大の国際的な潮流が不動のものになっておると考えられるわけでございます。したがいまして,そのようなことも考えますと,ここの関連性はできるだけ広く把握しておくという方が,条約の趣旨には合っているのだろうなと考えるところであります。 ● 条約の趣旨という問題なのですけれども,できる限り犯罪組織に収益を上げさせない,資金隠しをさせない,こういうことはよく分かるのですが,具体的に例えば今までの日本のマネー・ローンダリングの規定では,国際的に穴があって,極めてまずかったとか,そういう事情がある程度あれば,この際思い切って広げていくというのは分かるのですが,そういうのがない場合に,条約に沿う形でその方向を目指しながらも,我が国の前回議論したものを踏まえた形での列挙方式を維持しながら前提犯罪を考えていくというのも一つの在り方かなとは思うのですが,その辺,この間の組織犯罪法を作った以降の適用事例といいますか,動きとの関係から議論をさせていただけたらと思うのですが,何か分かっているものがあったら教えていただきたいのですが。 ● 先ほども御説明したところではございますけれども,もともと日本国内の事情に照らしまして,典型的に考えられた,例えば暴力団でありますとか,そういったものが当時の我が国内の状況下において,ある意味典型的に関与しておる,そしてそこから収益を得ているというものを一つのメルクマールとして前提犯罪を選んでいかれた,そういう作業が行われたように思われるのですが,そういう基準のもとにおいて規定され,運用されてきたものの中から,当たらなかったものについてどれだけの事案があるかということは,これは犯罪収益規制をかけていないものについてどういった手法で,統計的に幅広く入手できるかというと,これは,ほとんど不可能に近いような話にも見えるわけでございまして,結局一方でこの組織犯罪と申しますか,犯罪組織等々が社会のあらゆる活動に触手を伸ばすといいますか,関与してきている,あるいは資金源にしているという認識のもとに,しかもこれは日本国内だけではございませんので,国際的なその認識のもとにこういう前提犯罪の拡大がなされておるということでございますので,組対法を御議論いただいたときとは,その意味でも条約批准法という性格からも少し意味合いの異なったものになるのではないかと思っておりますが。 ● 問題がいろいろ絡んでいることも考えられますし,次の論点を議論したり,あるいは更にもう一つ議論したりして,もう一度一に戻るということももちろんあり得るわけでありますので,特に一について何か新たな観点をお見つけになった方があれば御発言いただくとして,もしなければ,二の共謀実行のための資金等の犯罪収益化の問題という点について御意見を賜りたいと思います。 ● 事務当局の御説明で,犯罪収益の定義,犯罪行為により生じ,若しくは得た財産又はこの報酬として得た財産という概念では,この場合とらえ切れないということで,2項の2でしたか,そういうことで入れさせていただくというお話があったのですが,これは収受するといいますか,証人等買収でさせられた側といいますか,働きかけられた側がもらってしまったといいますか,受け取ってしまった財産,それを犯罪収益に含めるという形になると思うのですが,それを犯罪収益とはするけれども,収受した側は処罰しないという構造になっているわけですね。逆に言うと,収受した側を処罰しない構造だから,ここに犯罪収益として入れないと,その犯罪収益そのものが生きてしまうのは問題だということでなっていると思うのですけれども,やはりもらった側は収賄的なものだけれども収賄罪とは違って罰するほどではないのだという辺りが,どうも根底に何かあるような気がしますので,また後に戻って第二を議論するときに,第二の「証人等買収」の贈賄的な側といいますか,そちらの側だけの処罰でいいのかどうかということと関連してくるのじゃないかと思うのですが,その辺はどういうふうに……。  この犯罪性を帯びたものを,犯罪収益性を帯びたものを収受しておきながら処罰はされないと,その程度だというふうに認識したというのは,ここで改めて感じたのですが,なぜそういうことになったのかというのをもう一度御説明していただきたいのですが。 ● 第二の「証人等買収」の受けの方を処罰しない理由の御質問だと理解しましたが,賄賂と考えるとなぜかなと思われるかもしれないのですが,実際にそこで証人等買収で利益提供を受ける者はどんな者かといいますと,これはいろいろな人があり得るわけでございます。犯罪組織の構成員みたいな人ももちろんあり得るわけでございますが,他方で典型的に想定されるものとしては,たまたまそういう事件を目撃したでありますとか,何かの書類の作成にかかわった,非常に偶然的な理由によって証人になり得る地位を持った,あるいは証拠物を所持するに至った,そういう非常に偶発的に刑事事件に関与したというようなもの,しかも一過性のものであるというものが贈収賄における普通の収賄者とは違うのではないかと思うわけです。すなわち一般的な収賄者というのは,自分の意のままに行使できる権限を持っておりまして,その地位には自ら望んでついておりますし,ある程度永続性のある地位であるというものに対しまして,証人等の方では非常に対照的に,一過性に受動的に関与するに至った,しかも意のままに行使する権限というより,義務を忠実に履行するというような立場であって,法益保護の観点から特に必要がなければ処罰すべき対象とも思われないというようなことから,利益を供与する側のみをまず処罰する規定を御提示しておるということです。  条約も,この犯罪の性質は外側から攻撃していく性質だということで,そこは義務的ですが,受ける方はどうしろということまでは言っていないということもございますが,そのようなことで受け側を処罰していないということでございます。 ● 私などはちょっとうがった見方をしまして,政策的判断かなというふうに思ったのですが。  といいますのは,共謀の方は自首の規定がありますけれども,こちらの方はある意味でいうとまだ独立教唆的,あるいは予備的な段階ですので,表にあらわれるという形にならない。そうなると,受けた側は,自分がもらったものは差し出す必要があるけれども,罪にはならない。だから,ある意味でそういう工作を受けたということを申告しても,その人自身の刑事罰はないよという形で,こういう事案をより積極的に摘発するといいますか,明らかにしていく上で必要として,政策的判断で置いたのかなというふうに思っていたのですが,その判断は余りないのですか。 ● そういう効果が生じたら,望外の幸せであるという感じです。 ● そういう見方があることを今御指摘いただきまして,そうなのかなと思ったような次第でございます。条約で義務付けられているのは外からの働きかけであると,これについては暴力的なもののみならず,金銭等の利益によって影響を与えようとするというのでしょうか,外から干渉する行為を国際的に処罰しなければならないという,その義務に端的に応ずるとするとこうなるということでございます。  一方,先ほどの供与された財産につきましては,その意味でこういった供与された財産そのものの存在を刑事法的に許すべきだろうかということになりますと,まずこれは没収対象にせざるを得ないわけでありまして,もちろん例えば供与を受けた方が偽証に至れば,その偽証の報酬ということで,その段階では働きかけを受けた方からの没収ということも当然あり得るわけで,この条約によっても証人買収によるものが犯罪収益の前提犯罪とすべきこととされていることを我が国の組対法の中で紛れなく示すとなると,こういった形になってくるのかなということでございます。 ● 誠に細かいことを申し上げて恐縮なんですが,わいろ罪的だというお話の関連で伺いたいのですけれども。  これ,供与ということになっておりますが,わいろの関係では供与は相手方の認識を要するというのが,収受と供与は常に同時に成立するのだという,それが必然的かどうかとはともかくとして,そういう理解できていると思うのですが,もしそれが正しければ,供与された側が認識していなかった場合というのはどうなりますのでしょうか。 ● これは,要綱(骨子)上の申込みに当たるのではないでしょうか。 ● いえ,犯罪収益としては供与された財産と。 ● 犯罪収益にはならないということになってしまいますね。 ● 認識がなければ,ならない。 ● 供与罪に当たらない限りは。 ● 今の御指摘,確かに没収ということを前面に出して考えてまいりますと,ここは供与ではなしに提供なのではないのかと。つまり,相手方が認識しないけれども届いておるとか,それを没収という形で犯罪収益性に乗せないと,うまくカバーしたことにはならないのではないかという御指摘ではないかと理解しますが,その点ちょっと検討させていただきます。 ● その他の点でも結構ですし,御発言がありましたらどうぞお願いします。 ● 二の1ですが,「共謀に係る犯罪の実行のための資金として使用する」という字句が使われておりまして,これでこの部分はよろしいのではないかと思うのですけれども,念のために伺いたいのは,「資金として」という字句を入れることがどういう意味を持つのか,つまり「犯罪の実行のために使用」するというのと,どこか違うのかという疑問ですが。 ● 端的に申し上げますと,犯行に供しようとする物件そのものが入ってきてしまうかどうかというところでございまして,犯罪収益規制に親しむという観点から,収益性のある資金に限定するということでございます。 ● そうすると,幾らか限定したということになるわけですね。 ● はい。単に財産とするだけであれば,凶器を調達しても入ってしまうだろうということです。 ● そのほかはいかがでしょうか。  そうしましたら,もう一歩進みまして,三の没収保全の問題について何か御意見がございますでしょうか。 ● この三のところは非常に技術的な修正でございますので,その趣旨を,最初に説明したところとやや重複いたしますがもう一度申し述べさせていただきますと,これは条約の12条1項の(b)のところと12条の2項のところにまたがるわけでございますけれども,条約の対象となる犯罪において,用い又は用いようとした財産,装置その他の道具の没収を可能としなさいというのが1項の(b)でございまして,それを最終的に没収するために特定し,追跡し,凍結し,押収することができるようにしなさいというのが2項の方にございます。したがいまして,ここの1項の方だけでありますれば現行刑法の19条の犯行組成物件又は供用物件の没収規定で対応可能なのでございますけれども,2項の「凍結し」という部分がございますので,この「凍結し」というのは権利移転を防ぐということが要求されてくる関係で,単に差押えだけでは足らず,没収保全の仕組みに乗せないと権利移転が正式に防げないということから,これを没収保全の対象に入れる必要が出てきたということでございまして,既にある犯罪収益についての没収保全の枠組みの中に,この犯行供用物件−−組成物件も同様ですけれども,それを入れるという形の技術的な修正を加える必要があるというものであります。 ● 三について,お聞き及びのごとき背景事情がございます。  もし御発言の御希望がないようでありましたならば,先に進むか,あるいは一に関連して,こういう問題があったと思いつかれたならば,それをお述べくださっても結構です。  では,要綱(骨子)の「国外犯処罰」の関係に進むことにして,事務当局の方から若干の御説明をしていただきましょうか。 ● 要綱(骨子)の第四につきましては,諮問事項が所要の規定の整備をするというアバウトな内容になっておりますので,整備につきまして今の考え方を若干御説明させていただきたいと思います。  ここに関連する条約の条文は,15条の3と16条の1と16条の10になります。それらをまとめて御説明いたしますと,要するにこの条約は締約国に犯罪化を義務付ける犯罪と重大な犯罪,すなわち5条,6条,8条,23条関係の共謀,資金洗浄,腐敗,司法妨害に関する罪と,長期4年以上の拘禁刑に当たる犯罪である重大な犯罪,これらを対象の犯罪としておるわけでございますが,そのような犯罪であって,かつ組織的な犯罪集団が関与するものというものにつきまして,これを犯罪人引渡しの対象犯罪といたしております。そして,この引渡対象犯罪につきまして,締約国に対し,自国民であることを唯一の理由として引渡しを行わない場合には,これを引渡請求国の請求に基づき,自国において訴追のために付託しなさいと,そして自国における訴追付託を可能とするために裁判権設定をしておきなさいと,そのような義務がかかっております。すなわち,引渡しをしなければ処罰しなさいと,そのような義務であるということでございます。  我が国は,逃亡犯罪人引渡法2条9号におきまして,逃亡犯罪人が日本国民であるときというのを引渡制限事由に掲げており,自国民不引渡しの原則を採用しておりますので,他の締約国から犯罪人引渡しの請求を受けた場合に,自国民であることを唯一の理由として引き渡せないという事態が生じ得るということから,条約上の裁判権設定義務を履行しておく必要があるということになるわけでございます。  しかし,この条約上の裁判権設定義務というのは,形式的に我が国における重大な犯罪すなわち,死刑,無期又は長期4年以上の懲役又は禁錮の刑が定められている犯罪,資料でお配りしてある一覧表に該当するすべてのものに裁判権設定義務が当然に及ぶのかといえばそうではなくて,性質上まずそこから設定義務が外れてくるものがあると考えられるということでございます。それは,例えば専ら自国の国家的法益の保護を図る犯罪等でございまして,それは他の国が当該行為を犯罪としていることは通常想定されないということと,本来他国が当該行為を行った者を処罰することが国際的に見て相当であるとは考えられない,要するに他国の法益を保護するための罰則の適用を別の国がするということは,決して当然に相当なこととは考えられないということでございます。そのような犯罪が性質上まず除かれます。  もう一つは,ちょっと技術的になりますが,この条約は,ほかの条約が例えば麻薬条約みたいに一定の行為の犯罪化を義務付けて,その行為についての引渡しを規定するというのとはちょっと異なりまして,対象犯罪は4年以上という法定刑だけで区切ってしまったという特殊性がございます。したがいまして,その中に入れる犯罪の中身は,各締約国の裁量に委ねておるということになるわけでありますので,そういたしますと,他の国で重大な犯罪になっているものは何かということを想定して,我が国の法律の罰則を作ったり拡大する必要まではない,各国それぞれ重大な犯罪としている中で,国際協調を図れば足りると考えられるわけでございます。  以上,申し上げましたことをまとめると,結局条約上の裁判権設定義務の及ぶ範囲はどうなるかといいますと,専ら一国の法益の保護にかかわる犯罪などを除いた犯罪,逆に言いますと,国家の枠を超えた普遍的な性質を有するような犯罪であり,そして,なおかつ外国で行われた行為にも自国の罰則の構成要件を直接適用することが可能になっているものである,このような犯罪であって組織的な犯罪集団が関与するものを条約は,引渡対象犯罪にしておるということでございます。したがいまして,今申し上げましたような範囲内で国民の国外犯処罰を可能とする規定の整備をしておけば足りるということになるわけでございます。  これを,具体的に各論的に申し上げますと,次のようになるわけであります。  まず,重大な犯罪,すなわち4年以上の犯罪ということでございますが,これは刑法と特別法に分けて御説明いたします。  刑法犯につきましては,御承知のように刑法の2条,3条,4条及び4条の2におきまして国外犯処罰規定がすべて整備されております。条約上の裁判権設定義務に対応する範囲では,4条の2が少なくともかかることによりまして,条約上の義務は完全に履行されておる,刑法犯につきましては履行済みであるということが言えます。  次に,特別法犯でございますが,ここは形式的には多数の規定が重大な犯罪に該当するわけでございますが,しかしその多くはいわゆる行政犯でございます。つまり,行政施策の目的の達成という我が国固有の利益を保護するために法定された罰則でございまして,性質上,他国がそれを犯罪にして処罰を追及するということは想定されないわけでありますので,そのようないわゆる行政犯には裁判権設定義務は及ばないと解されるわけであります。もっとも,特別法犯の中には普遍的な性質を有する犯罪を定めるものもあるわけでございまして,例えば暴力行為等処罰法でありますとか,盗犯等防止法でありますとか,準刑法と言われるようなものを始めといたしまして,あるいはいわゆる行政法の中にもそういう自然犯的なものが紛れ込んでいるものがないとも言えないわけでございますが,そのような普遍的な性質を有する犯罪につきましては,外国で行われた行為にも自国の罰則の構成要件を直接適用できるようなものであれば,国外犯処罰規定の整備をしておく必要があると。つまり,罰則の構成要件自体はいじらないけれども,管轄だけを広げる,そのような手当てをしておく必要があるということでございます。  しかし,それを個別に見ていきますと,既にもうほとんどのものにつきましてはつけられておる,たとえばテロ関係とか薬物関係等の犯罪は条約の要請に基づいて国外犯処罰規定が整備されておるなどということで,相当程度のものには既に国外犯処罰規定が整備されておる現状でございますが,なおこの際,関係規定をよく精査いたしまして,ただいま申し上げましたような方針に沿う形で,必要があるものにつきましては,「刑法第4条の2の例に従う」という国外犯処罰規定を設けるということになるわけでございます。  これが,重大犯罪につきましての所要な規定を整備するということの方針であります。  次に,各論の第二分野は,条約が個別に犯罪化を求めている犯罪についての国外犯処罰はどうなるかということでございまして,その一は,組織的な犯罪の共謀の罪でございます。共謀罪といいますのは,これは重大な犯罪の遂行の合意でございます。その重大な犯罪につきましては,今申し上げましたような条約上の裁判権設定義務が及ぶ範囲というものがございます。共謀罪というのは,共謀罪に固有の保護法益があるというよりは,その共謀に係る罪の法益保護に資する犯罪でございますから,共謀に係る罪が条約上の裁判権設定義務の及ぶ犯罪であれば,その同じ範囲におきまして共謀の罪も裁判権設定をしておく必要があると考えるわけでございます。そういたしませんと,共謀だけが処罰されて本犯が処罰できないというような,いびつな格好になるおそれがございますので,裁判権設定義務が及ぶ範囲は,重大犯罪を基準として整理される,これが条約の趣旨であると解釈しておるところでございます。そして,条約上の義務に対応する限りにおいて,国外犯を広げるという意味で,刑法4条の2の例に従うということにするつもりでございます。  次に,資金洗浄の罪でございますが,この関係は組織的犯罪処罰法10条,11条,麻薬特例法6条,7条にある収受・隠匿等の罪は,それぞれ組織的犯罪処罰法12条あるいは麻薬特例法10条において,既に一般的に国民の国外犯処罰規定が設けられておりますので,条約上の裁判権設定義務は完全に担保されております。  なお,マネー・ローンダリングに関しましては,犯罪収益について条約が締約国の管轄の内外いずれで行われた犯罪も含まれると,つまり前提犯罪の方は外国で行ったものであっても,国内での犯罪収益として取り扱いなさいという,そういう規範が条約上あるわけでございますが,この点につきましては組織的犯罪処罰法におきまして所要の規定が手当てされておりますので,対応済みでございます。つまり,組織的犯罪処罰法2条2項を見ますと,日本国外でした行為であって,当該行為が日本国内において行われたとしたならば,これらの罪に当たるもの,かつ,当該行為地の法令により罪に当たるもの,このようなものも前提犯罪に含めるという明文の規定ができておりますので,マネー・ローンダリングの関係は前提犯罪の面でも資金洗浄罪の行為の面でも,両方とも完全に条約上の義務を担保しておるということでございます。  あと二つ贈収賄と司法妨害でありますが,贈収賄の関係については,条約は,これは自国公務員と外国公務員とを区別しておりまして,各締約国に対して自国公務員の贈収賄の犯罪化を求めておりますが,外国公務員の贈収賄につきましては,犯罪化の考慮にとどめておるわけでございます。そして,自国公務員に対する贈収賄というのは,公務に対する信頼という専ら当該国家にかかわる法益を保護する性質のものでありますので,本条約の裁判権設定義務は当然には及んでおらない,したがいまして特段に国外犯処罰をすべき条約上の義務まではかかっていないと解しておるところでございます。  しかしながら,贈賄罪につきましては,別途国内・国外の動向や本条約の趣旨に沿うこと等々を考慮いたしまして,一般的な国民の国外犯処罰規定をこの機会に設けるということにしておるということでございます。  最後に,司法妨害の件でございますが,これは専ら一国の主権行使にかかわる司法制度に対する信頼を保護するという性質にかんがみまして,外国の刑事事件に関する司法妨害行為の犯罪化までは義務付けられておらないというふうに考えられまして,結局本条約の裁判権設定義務は及んでいないということで,特段の手当てはしないというつもりでございます。  一応,以上が所要の規定整備の方針でございます。 ● いかがでございましょうか。 ● いただいた資料の中の,諸外国の例で,贈賄罪の国外犯処罰関係というところを見させていただきますと,アメリカは贈賄に関して国外犯を処罰する旨の規定はないというふうに記載されているのですが,アメリカではこの規定はこのまま維持ということになっているのでしょうか。アメリカはなぜこうなっているのですかという理由を,分かる限りで何か教えていただければと思います。 ● アメリカにつきましては,贈賄に関する国外犯処罰の明文の規定はないわけでございますが,資料の(注)にもちょっと書きましたけれども,裁判例によって域外適用といいますか,が考えられておりまして,ちょっと今手元にございませんが,要するに外国で行われた行為でありましても,国内にいろいろな効果が及ぶような場合につきましては,域外適用ができるという基本的な考え方がございまして,贈賄の場合には外国で行われましても,公務が行われるのは基本的に国内でございますので,解釈的には国外で行われた贈賄行為のほとんどは域外適用がされるであろうということでございました。具体的に域外で適用された裁判例そのものというのは,私はまだ発見していないのですが,解釈論的には,アメリカの司法省など,担当者などに問い合わせると,そのような答えが返ってきておるということであります。 ● 日本の場合でも,同じようには考えられるのですか。これはアメリカ的運用ができるかということなのですが。 ● 日本の場合には,国内犯の1条の規定の解釈に基本的になると思いますが,現在は実行行為,結果等も含めましてその一部が国内で行われればということでございますが,賄賂罪自体は必ずしも公務の遂行そのものが構成要件にはなっていないのだろうと,枉法贈収賄の場合などであればあるいは考えられると思いますけれども,一般的な意味での贈収賄自体は,職務に関し賄賂の収受だけでございますので,必ずしも国内にその行為の一部が及んでいるとは言い難いのじゃないかと考えているところでございます。 ● 私も,この要綱の第四というのは,余り具体的でないという印象を受けたのですが,前回の御説明と今回の御説明で基本的なことはよく分かりました。  二点伺いたいのですが,一つは,条約との対応関係です。今15条の3と16条の1と16条の10が関連する条約の条文であると言われて,その点は了解したのですが,そうすると結局は第3条の1のところに戻ってきて,立法措置をするのは3条の1の(a),(b)であると,そういうことになるわけですね。 ● 済みません,最後のところがよく聞き取れなかったのですが,3条1の(a),(b)が基本的な対象犯罪でございますが。 ● 15条の3と16条の10と16条の1がその根拠規定なわけですね。そうすると,16条の1は第3条1(a)又は(b)に規定する犯罪であって,「組織的な犯罪集団が関与し」と,これを16条の10が「この条の規定の適用を受ける犯罪につき」というふうに言って,結局はそれが3条の1ということになって,それが立法の対象になる,そういうことになるのですか。 ● 引渡犯罪が前提になりますね。引渡犯罪は,3条1(a)又は(b)であって,かつ組織的な犯罪集団が関与するものということでございます。 ● 今の御説明で,事の性質上自国の国家法益のみに対するものは立法の手当てが不要だというふうに言われたので,そのとおりだと思うのですけれども,3条の1を見ると,「この条約は,別段の定めがある場合を除くほか,次の犯罪であって,性質上国際的なものであり,かつ,組織的な犯罪集団が関与するもの」云々とありますね。ここのところの「性質上国際的なもの」というのは,この文言によって条約上立法義務に縛りがかかっているのか,あるいはそうではなくて,今言われたような事の性質からいって立法の手当が不要となると考えるべきなのでしょうか。 ● 3条の1の「性質上国際的なもの」というものが,引渡しの規定の上にどれだけ生きているかという点につきましては,もう少し検討しないと正確なお答えができない部分があるのかもしれませんが,基本的には16条の1項にありますように,「この条の規定は,3条1の(a)又は(b)に規定する犯罪であって組織的な犯罪集団が関与し」,かつ「その者が締約国内に所在するもの」という形で,3条そのものというよりは,3条に書いてある言葉を利用しつつ,16条で対象犯罪を新たに規定しているというふうな考えの方が素直ではないかという理解できておるところです。 ● 結論は同じになるのかもしれませんが,条約の担保法を審議するときには,条約の文言上どこまで立法義務があるのかということをきっちり考える必要があると思うので,質問いたしました。  もう一つは,結局そうしますと,今回国民の国外犯についての立法上の手当てをするのは,重大犯罪についてと,それから共謀の罪については重大犯罪についてと実質的に同じになると,その部分なわけですね。その具体的な案は,法制審議会に提出されるのでしょうか。 ● 共謀罪につきましては,「刑法4条の2の例に従う」という規定を設けるつもりであるということで,提示済みといえばそういうことになろうかと思いますが,重大な犯罪の方で,これですべてかどうかという形での案を御提示するつもりは,今のところございません。法律の性質とかを詳細に詰めた上でないと,最終的にその規定を設ける必要があるかどうか,政府部内できちんとした議論をすべき事柄が生ずる可能性もございますので,そのようなことでこれですべてだという形での案の御提示はなかなか困難かなと思っております。そういう意味で,今回こういう基本的な方針で整備をさせていただきたいということで御説明申し上げて,御理解をいただきたいと思っているところです。 ● それでは,少しここで休憩をさせていただきます。            (休     憩) ● それでは,再開したいと思います。  先ほどの第四の国外犯処罰の関係について,技術的な問題も大分あるわけですが,何か御発言がありましたらお願いをするとして,もし特段の御発言がないようでしたら,第一から要綱(骨子)について順に一通りもう一度全体にわたってお話を承る,そういうような段取りにしたいと思います。 ● 最初に戻る前に,全体の問題として一点伺いたいのですが。  例えばOECDの外国公務員に対する贈賄の条約などは,相互審査のようなフォローアップがあるのですが,この条約についてはフォローアップはどのようなものが予定されているのでしょうか。 ● OECD条約のような形でのフォローアップの仕組みというのが明定されているわけではございませんので,今後恐らくということではございますが,締約国会議などで,必要とあればそれにふさわしい仕組みを設けていかれる可能性はあるということではなかろうかと思っております。 ● 贈賄罪の国外犯規定を設けるということと,ちょっと適用場面が違っていますけれども,不正競争防止法10条の2で外国公務員に対して贈賄的な行為をすることの処罰規定がありますが,ここら辺は全く別の考え方なのでしょうか。 ● 不正競争防止法の方につきましては,これは別途の条約の関係の担保立法でございまして,必ずしもこちらと連動するというわけではない,それはそれで担当省庁を中心にいたしまして,政府部内でまた検討していく問題であると考えております。 ● 更に何か関連して特段の御質問はないでしょうか。  もしないようでしたらば,先ほど申しましたけれども,2巡目の議論ということで,要綱の一からお気付きの点,あるいはその後お考えになった点,あるいは事務当局の方で確認のためにこの点をと念押しの御発言があれば,それでも結構ですし,いかがでございましょうか。 ● 私ども裁判所の立場から,前回は構成要件の意義について解釈上の疑義を残さないためにということで伺ったのですけれども,もう一点,裁判所の立場から気になりますのが,法定刑のバランスの問題というのがございまして,それがよく似たような構成要件,あるいは関連する犯罪類型でバランスがとれていないと控訴理由や上告理由の中でその辺を主張されて,あるいは憲法14条違反の主張を立てたり,量刑不当の主張が出るとかいうことがよくあるのです。その意味で,そういう場合には裁判官としては,構成要件ごとに法定刑の違いがどういう形で,どういう理由で合理化されるのかというのはかなり気にして考えるのですけれども,その意味で考えていきますと,今回の共謀罪というのはあくまでも組織性の枠が入っているということで,通常の予備罪などと比べて少し高めの5年とか3年とか,そういう形の法定刑にするというのはそれなりの合理性があるのかなという気はしておるのですが,他方で二点ほど気になっている点がありまして,一つが組織犯罪処罰法における組織的な営利目的略取誘拐,これの予備罪が懲役2年が上限になっている。それに対して,今回共謀罪ができますと,懲役5年ということになる。そうすると,共謀と予備の関係というのはどうなるかというのはいろいろなパターンがあると思いますので,必ずしも共謀の方が発展類型で出てくることもあろうかとは思うのですけれども,通常共謀に類似する陰謀についてはむしろ予備罪とほとんど同じ法定刑が定められることが多いと。そうしますと,この場合にこの法定刑の違いをどういう形で合理的に説明するのかというのを是非伺っておきたいということが一点。  もう一点が,やはり組織的犯罪処罰法の3条1項の中で,5年以下の懲役と定められている類型が幾つかございます。組織的強要とか組織的信用毀損,業務妨害,そういうものですけれども,これらについては共謀罪の段階では懲役3年以下という形なのですけれども,これが実行の着手になったときどうなるのかと考えますと,先日のお話ですと実行の着手になった場合には本犯の方に吸収されると,そうするとそれが未遂に終わった場合には,多分未遂減軽が可能ということになって,未遂減軽すれば懲役2年6月以下ということになると思うのですけれども,そうすると共謀罪の段階よりも刑の上限がかえって軽くなってしまうというところがあるのかなと。ですから,かえってそうなるとむしろこれらの犯罪については必ずしも吸収されないで共謀罪が優先するという考え方もあり得るのかなという気もするのですけれども,その辺り,法定刑のバランスについてどう説明されるのかというのを教えていただければと思います。 ● 答えの順番が逆になりますけれども,まず未遂の方から先にお答えをしたいと思います。  要綱(骨子)は,本犯が5年の場合に,共謀罪の法定刑を3年以下と決めているのではなくて,本犯が死刑,無期若しくは短期1年以上のもの以外の重大な犯罪について3年以下としているわけでございまして,具体的には10年以下の懲役などと定めているものが多数対象になってくるわけでありまして,そのようなものを念頭に置けば,別に今御指摘のような問題は生じてないわけです。ここで定めております法定刑の大枠の中で,おのずと上のものは上のもの,下のものは下のものと考えていけば,このような問題は生じないということです。  また,今御指摘の点は,法定刑と処断刑を比べているということになりますので,法定刑と法定刑をまず第一義的にはお比べいただきたい。そういたしますと,今のような不都合も生じないだろうというところでございます。  確かに,通常の障害未遂は任意的減軽ですので,そうは言っても実際上余り違和感はないかもしれませんが,例えば中止未遂なんかの必要的減軽だという場合に,あるいは2年6月と3年と逆転するような印象をお持ちかもしれませんけれども,そのような場合につきましては,共謀罪の方につきましても3年は上限にすぎないということと,あるいは自首による減免のような仕組みも作ってあるわけでございますので,そのようなことと比べれば,実際上不均衡というものは余りないのではないかなと考えているところでございます。  それで,次に組織的営利誘拐予備の2年との均衡論でございます。これは,私どもも一見すると均衡を失しているというのは重々承知しておるところでございますが,考え方を説明させていただきたいと思います。まず予備罪と共謀罪の刑の軽重というもの,ちょっと大上段になってしまいますけれども,○○幹事からも御指摘のように,例えば予備,陰謀は同列ではないかとおっしゃるとおり,予備も共謀も結局は目的とする犯罪を準備する段階の行為でありまして,実行着手前のもの,それぞれ処罰の価値があるものということで,特に単独犯の場合であれば決意があってから予備が行われるという意味で順序があるのかもしれませんが,共犯の関係になりますと,予備と共謀の成立順序というのは必ずしも一概には言えない。予備が行われた後で共謀が成立することも十分あるわけでありまして,論理的に予備と共謀がどちらが重い,どちらが前だ後だということにはいかないだろうと。そうこう考えますと,大枠を決める段階では予備と共謀は同じような法定刑にしておくということは,一つの大いにあり得る選択なんだろうなと思うわけでございます。  ただ,組織的犯罪についての予備罪というものは,現行法上は処罰法に二つ散発的に規定があるだけで,それに対しましてこちらは,重大な犯罪全般につきまして組織的な形態における共謀罪を新たに犯罪化しようとするわけでありますので,その物事を考える順序といたしましては,今現にある組織的予備罪は参考として考慮すべきではございましょうが,それに拘束されるというのはちょっと本末転倒ではなかろうかと,むしろ組織的な形態で行われる共謀罪の枠組みとして,どのようなものが適正かというものをまず第一に御議論いただいて,それが決まった後で,もし必要があれば現在の組織的予備罪についての修正の要否というのを検討していくという方が筋論ではなかろうかなと思うわけでございます。  そこで検討いたしますと,前にも少し御説明申し上げたかと思いますが,準備段階,予備段階の法定刑といたしましては,5年,3年,2年という枠組みをとられているのが一般的であるということから,共謀罪の対象とする重大犯罪を2類型に分けるのであれば,5年と3年というのがいいのではないかなと思ったところでございます。  上の方を5年にすることは,ちょうど組織的殺人の予備と均衡はとれているということもございまして,それも考慮の一要素であることは否定いたしませんが,共謀罪の上の方を5年にしたということは,別にそれだけではなくて,例えば国際的な共謀罪についての刑の水準を見ましても,アメリカは組織的ではなくて一般的な共謀ですが5年になっておる,フランスは5年,10年の枠組みである,ドイツもテロリスト犯罪団体については10年で,一般の犯罪団体が5年というようなことで,5年というのは世界的に見て共謀罪の一つの最低限の水準かなということがございまして,しかも我が国では組織的要件をかぶせた上での5年ですので,決して突出するということはない,逆に,これを更に下げると,ちょっと国際的には突出して低くなってしまう可能性もございまして,それも余り好ましいことでもないかなと考えて,上を5年にいたしました。  そういたしますと,便宜二つに分ける場合に,途中の3年の刑を抜いて2年とするのもまたいささか説明がつきにくいという実情がございまして,今のところは5年,3年の二類型の案で提案させていただいているというところでございます。  さてそれで,組織的営利誘拐予備との関係でございますけれども,組織的犯罪の共謀罪ができた後の段階ということになるわけでございますので,組織的営利誘拐の予備が成立する場合にはどうかといいますと,組織的営利誘拐の共謀の罪が成立している場合としていない場合と両方あるだろうと思うのです。そして,組織的営利誘拐の共謀が成立しておれば,予備と共謀が両方あるときには恐らく包括一罪的な罪数処理になるのではないかなと,一つの犯罪に向けた,同じ方向を向いた準備段階の行為が複数ある場合で予備が二つあれば包括一罪でしょうから,恐らく予備と共謀も一罪処理がなされる可能性が高いものだと。いずれにいたしましても,組織的共謀罪の5年の刑で賄えるということで,組織的営利誘拐予備の2年が残っていても実害はないであろうと思うのです。  そういたしますと,組織的営利誘拐の共謀が成立していない段階で予備だけが成立するというのが残るわけでございますが,これは多くは前にも申し上げました他人予備類型の場合になるのだろうなと,つまり,自らが実行する目的で予備をする場合には,予備罪の成立の段階の前,あるいは成立の間もなく後で共謀罪も多くの場合は成立するだろうと思われるのですね。そういたしますと,組織的営利誘拐の予備だけが立って共謀罪が立たない場合は,主として他人予備の類型だろう,その場合には,本犯が成就した場合には幇助に該当するわけでございますので,5年の半分は2年6月でございますから,2年とちょっと違うけれども,まあまあかなと思うわけです。極めて大ざっぱな説明でございますけれども,そういう意味で,実際上犯罪を適用するに当たって,組織的営利誘拐の共謀罪が適用できる事例はそちらで賄えば,2年の方が問題になる事例は余り生じないだろうと,組織的営利誘拐の共謀が立たない事例であれば,今現在の2年のままであっても,そんなにひどい不均衡も出てこないのではないかなと思っているところでございます。 ● そういたしますと,他人予備類型で共謀がない予備が行われた後に,その人が今度共謀にまで至った場合には,この場合も包括一罪ということになるのでしょうか。それとも,この場合は別罪が成立するという形になるのでしょうか。 ● どういう事案かというと,いろいろあり得るかとは思いますが,その人にとって結局両方同じ方向に向かって成立するような事例であれば,最終的には一罪処理でいいような気がいたしますが,ご指摘の事案の事実関係がどのような場合か,なかなか想定し難い点もございまして,事実関係を踏まえて考えるべきであると思います。 ● もう一点,組織的営利目的略取誘拐予備と共謀の関係をそのように考えられるということは,組織的殺人の予備と共謀の関係もやはり成立関係は同じように考えると。この場合,法定刑は5年・5年なので,バランスの問題というのは余り生じないのかもしれないのですけれども,成立関係というのは今御説明いただいたのと同じように,共謀が成立して予備が来たら,包括一罪でむしろ共謀の方が優先すると。それで,そうじゃない場合,他人予備類型の場合には予備。そういう理解で同じように考えるということでよろしいわけでしょうか。 ● 基本的には同様の考え方となると思います。 ● ありがとうございました。 ● 御発言を求めます。 ● 私どもが聞いているところでは,条約審議の際に日本政府が提出したペーパーの中に,すべての重大犯罪の共謀と準備の行為を処罰化することは我々の法原則と両立しないという趣旨の表現があるというふうに聞いていたのですが,この前,私がこの中で,やむなく今回こういう共謀罪を作るのかという御質問をしたのは,実はそういうことを少し念頭に置いておりまして,やはり共謀のみを処罰するというのは日本の一般的な法原則とは両立しないのだと,しかし国際的な流れだからやむを得ない,こういう立場だというふうに思って質問したのですが,そういうことで国内法の整備を図っているということでよろしいですか。 ● 前にもお答えいたしましたように,国際的な動向が今回の立法の大きな契機になっていることは間違いないところでございますが,それを作れば国内的にも,また国際的にも,組織犯罪に対する取組みが非常に効果的にできるようになるだろうというメリットもまた認められるだろうと思っております。 ● といいますのは,また古い話であれですが,前回の組織犯罪対策法の議論のときに,事務当局の方から,組織犯罪として刑法典なりに規定されている犯罪をすべて組織的犯罪の場合には重くするという方針をとらないで,その中から一部の殺人だとかそういうものを取り出したということの説明で,こういう組織的に行われる犯罪は一般的に違法性が高く,犯罪組織の状況にかんがみてそのことを刑事法上明らかにしようと思われるが,刑を加重する罪の範囲についてはこれまでの犯罪の形態や暴力団構成員の占める割合,量刑の実情等を考慮して限定したというふうに話しているわけですね。そういう趣旨で組織犯罪としてすべての犯罪に網をかぶせて重くするという方針をとらなかった。ところが,今回,条約だということで,共謀に関しては組織性ということがあればすべて罰する−−すべてと言うと長期4年だということになるのかもしれませんけれども,最初お出しいただいた資料によれば,犯罪のかなりの部分が処罰される。こういうふうに大きく転換するというふうに見えるものですから,私としてはやはりその辺りの,前回の本犯をかなり重くするというときに絞りに絞ったという姿勢と,今回は大転換になるのではないか,その意味で今後の刑事法に与える影響も,今度の立法化によって大きく変わるのではないかという危ぐをしているものですから,ちょっと先ほどそういうことでお聞きしたのです。  いや,変わらないのだと,というふうなことはなかなかこちらとしては分からないものですから,その辺の事務当局の苦衷というか,何かありましたらお聞きしたいと思うのです。 ● 条約に加入するということを優先的な課題だと位置付ける以上は,条約上の要請を最低限満たす担保法を作らざるを得ないということになっておるわけでございますが,そうは言いましても,じゃあ条約の原則をそのまま全部ストレートに表現したのかといったら,そうではなくて,条約の許容している付加的な要素である組織的犯罪集団の関与というものを最大限拡張したといいますか,国際的に見れば相当高いハードルだろうと思いますが,かなり絞った要件をかぶせた上で国内法化をして,余り過激にわたらないような最大限の配慮はされているのではないかと思っております。 ● その点ですが,この前から議論になっている条約の34条2項ですが,「第5条の規定により組織的な犯罪集団の関与が要求される場合は,この限りでない」というふうに書かれているのですが,これは第5条に関しては立法化に当たって組織的な犯罪集団の関与というものを要求してもいいと,そういうふうに読めるのかということと,もし読めるのでしたら,この組織的な犯罪集団ということについては,第2条で定義があって,「三人以上の者からなる組織された集団であって,直接又は間接に金銭的利益その他の物質的利益を得るため,一定の期間継続して存在し,かつ,一又は二以上の重大な犯罪又はこの条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として協力して行動するものをいう。」というふうになっていますので,今までの組対法と違った形の規定ができないのか,そういうことをすると条約違反になるというふうになってしまうのか。ならない可能性もあるのではないかというふうに思ったものですから,そのことをお聞きしたいと思って先ほどの質問をしてみたのです。 ● 34条2項のただし書で書いてある,「第五条の規定により」云々というのは,正に第5条1項(a)の(@)の,仮訳文でいくとただし書にあるところの「組織的な犯罪集団が関与するもの」という限定を許すというところに明文であらわれておるところでございます。  そして,この組織的な犯罪集団の関与というものを国内法化するに当たっては,当然各国の国内法との整合性等々をある程度考慮する余地はあるということになろうかと思います。  そして,条約が言う組織的な犯罪集団の定義をそのまま用いるか,あるいは既に現行法上ある組織的犯罪集団に引きつけて考えるか,それが条約の要求に違反していれば条約違反になりますけれども,許容される場合にはどのような概念を用いるかというのは立法裁量の範囲内だろうと思うところでございますが,では,果たしてどれほど違うのかなというと,条約で規定しておる組織的な犯罪集団と我が国の組対法上の犯罪の団体の活動としてという概念とにそれほど大きな違いがあるかというと,余り変わらないという理解もできるのじゃないかなと思っておりますが。 ● その辺,よく分からないので悩んでいるところなのですが,条約上の組織的な犯罪集団というイメージは,ある意味で犯罪を常態としている−−と言うとおかしいのですが,直接掲げているかどうかは別にしても,悪いことをすることを目的としている団体のイメージが浮かんでくるのですが,日本で言っている組対法の場合は,団体性そのものについては中性的な規定をしていて,その中の一部が組織的に犯罪を犯していく,こういう形で規定しているというふうに思っているものですから,その間には大きな違いがあるのではないか。ですから,国際的な要請に対する組織的な犯罪集団という概念と,組対法に言う団体,そしてその中での組織というものとの概念は少しずれがあるのではないかと思っているものですから,今回の共謀というものを決めるときに,今までの組対法の概念をそのまま当てはめて共謀罪というのを成立させていいかというところは,少し私としては疑問があるのですね。  一つの犯罪集団が事を起こしていくのに共謀していくという形で,その共謀に着目して規制を加えていくというやり方は,それなりの論理性があると思うのですが,中性的な団体というものをターゲットにしていて,その中の組織性を帯びたものが何かをやるときに,そこの共謀というものに着目して,それだけを取り出して処罰するということとは質的な違いがあるのではないかという感じがしているので,その辺ちょっと御議論いただけたらと思うのですが。 ● これを素直に読んだとき,どう受けとめるかということなのでありますけれども,集団の属性として,三人以上の者からなる組織された集団だと,そして一定期間継続しておるということであります。そういう意味で,単なる二人の普通の共謀みたいなものを組織的な犯罪集団ということとしては呼ばないということは分かるのでありますけれども,ところがそういう組織にある者が協力して行動するということでありますので,結果的には組織すること自体が犯罪を行うことを目的としたものに限るのかと,もともとの犯罪組織,組織の結成目的というのが犯罪を行うことを目的とするものに限られておるのかというと,これは必ずしもそのようには読めないように思われますが。 ● 一点補足いたしますと,「組織された集団」と,日本語で言いますと非常に何か固い組織のような印象を受けますが,(c)の用語の定義を御覧いただくと分かりますように,偶然に形成されたものではなくて,正式な役割とか構成員の継続する発達した構造を有することを要しないというふうに,かなり幅広くカバーし得る,ある程度緩やかなものまでカバーし得るような定義が置かれておりますので,その点補足させていただきます。 ● それとともに,5条の犯罪化義務の中で,いわゆる大陸法系と申しますか,カナダもそれをコンスピラシーとともに採用したわけでございますけれども,結社罪と申しますか,参加する罪といったような類型におきましては,必ずしも特定の犯罪行為の遂行を目的とすることは必要でないということを一方で言っておりまして,特定犯罪の場合に共謀罪ということで出てくるわけでございますので,今おっしゃったような理解でまいりますと,結社罪のときには付加的な要件をつけることが条約上許されていない,にもかかわらず共謀罪をとったときには中身として結社罪の更なるプラスアルファのようなことを許すという,非常に条約の解釈としてもおかしなことになってまいりますので,その意味では当該組織と申しますか,団体自体が犯罪を行うために組織された団体であるといったような意味合いはもともとないというふうに理解した方がよろしいのではないかと思われますが。 ● 第5条の(a)の(@)を見ますと,「金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のために,重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意すること」という形の条項があるのですが,これと今回の共謀罪というものの関係を見た場合,少なくとも金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接,間接に関連する目的という部分がなくなっているので,今回の共謀罪の方が条約よりも広くなるのではないかというふうに私は考えているのですが,この点はどうなのでしょうか。もしそうだとするならば,条文としてはこちらの方が適切ではないのかなというふうな感じがいたします。 ● ただし書の組織的犯罪集団の関与の要件を外して,合意だけで成立させる共謀罪を作るということであれば,正におっしゃるような御指摘,御批判が当たり得るだろうと思うところでございます。しかしながら,「団体の活動として当該行為を実行するための組織により」という,この要件をつけますと,非常に違法性の高いものに限定されてしまっておりますので,金銭的利益その他の物質的利益を得ることの目的の有無にかかわらず,国内的にはいずれも処罰すべき違法のレベルに達してしまっているだろうと思われます。したがって,条約上はそこで限定しておけば足りるということになったといたしましても,それを国内法化するに当たっては,ではそれ以外の目的で同種の行為が行われたときに処罰しなくていいのかということが全く説明がつかず,「団体の活動として組織により」というそういう高い違法性を有する形態で行われたものは等しく処罰すべきであると考えられることから,国内立法の観点においては,そこの目的による限定というのは適当ではないと考えられるわけです。 ● 今の条約の読み方なのですが,やはり原則はこの「目的のために」というのを入れた上で,国内法でもし必要とされるときにはこういう要件を付け加えてもいいという,こういうふうに読むのじゃないでしょうか。 ● 国内法で作るときには,そのような要件を付してもいいというのは,これは最低限のラインを言っておりますので,国内法で緩和するのは条約に書いていないので条約違反かというと,そのような条約の義務というのは普通考えられないところでございます。最低限これだけやれということでございます。 ● ちょっと私の質問の仕方がおかしかったと思います。国内法で必要とされるときには,両方の要件を入れて作るということには読むことはできないのでしょうか。緩和するという趣旨ではなくて。  要するに,条約としては本文の内容なのですけれども,国内法を作る上ではそれに加えてこの二つの要件のどちらか,若しくは両方という形に読むことはできないでしょうか。 ● 直接,間接に関連する目的というのは,合意を処罰することの中でそれを目的で限定しているという意味があるのでしょうから,その目的による限定をしないより広い犯罪化をしたところで条約違反になるということはあり得ないわけですね。ですから,それは担保立法を作るに当たって最低限でなければいけないということになった場合に,その目的がないのはけしからんという御議論はあり得るとは思うわけですが,ただそうは言ってもその目的を付ける意味があるかというと,その組織的な犯罪集団の関与という,よりそれをカバーしてしまうような,カバーというか打ち消しというか,そういう別の要素が付いてくる関係で,その目的を残しておくことが適当ではなくなったということに御理解いただきたいと思います。 ● 組織的な犯罪集団の関与と,この目的というのは必ずしもオーバーラップする関係にないのではないかと私は思うのですが,そこの点はいかがでしょうか。 ● 一つは,国内法の概念で,例えば普通法令などで出てまいりますような営利の目的でありましたり,財産上不法の利益であるとか,報酬を得る目的とか,いずれにしても営利の目的,財産上不法の利益を得る目的とかいったことで考えられております利益とは,かなりここでは異なった広いものがもともと考えられておりますので,その意味で条約で言っております目的の部分というのは,日本法にはちょっとない概念で,かなり広い概念であることは間違いございません。  その一方で,前回以来申し上げておりますように,私どもが今回御提案させていただいております組織性というのは,ある意味相当厳しい組織性の要件であることもまた間違いないわけでございまして,そういう厳しい要件のもとで違法性の高いものに限ってやりました場合に,今申し上げたような意味での直接・間接の財産的な目的というものも一部ない場合もあるかもしれませんが,単なる報復のためであるとか,そういう物質的なものと何ら結びつかない犯罪類型もこの中には,今,御提示させていただいているものでは入る可能性はございますけれども,しかし他方国内法制ということでこれはできるわけでございますので,そうなりましたときに,今申し上げたような意味での広い直接・間接の財産を得る目的みたいなものは処罰の対象とはするけれども,それがないものについては一切合切手出しはしないということが,例えば殺人の共謀ということでお考えいただきましたときに,これはちょっと国内法制としてあり得ることなのであろうかと,日本が共謀による組織的な殺人等もないという国であればそれは成り立ち得るかもしれませんが,ちょっといかがなものかなということで,結果的に我が国の実定法ということで考えるとこういう形になるのかなということでございます。 ● 先ほどの○○委員の御質問の確認ですが,例えば大型詐欺事件といいますか,豊田商事のような,そういう大型詐欺を目的としたような集団が行う場合は当然含まれると思うのですが,そういった集団でない,会社の営業所だとか,あるいは一つの部署の中でこういう詐欺というようなものが共謀されたような場合も,これは当たるのでしょうか。これが第一点。  第二点は,共謀の概念については具体性,特定性,現実性を持った犯罪実行の意思の連絡ということですが,特に現実性のところで,いわば客観的な犯罪実行の危険性といいますか,その程度というものはどの程度のものでしょうか。  例えば,ある宗教集団で教義にこれを入れまして,例えば10年計画なりでこういうことをやっていくというような場合も,これはやはり共謀に入るのでしょうか。 ● 大変お答えの難しい質問でありまして,後者の方の現実性等の程度のところは,正にどの程度の犯罪遂行の危険があるかということの個別の案件ごとに判断せざるを得ないというお答え以上にはなかなか困難だというのが正直なところでございます。  前段の方の,団体の一部の部署の者が行った場合がこの団体の活動として云々の要件に当たるかというのは,現在の組織的犯罪処罰法3条の解釈と全く同じになるということでございまして,それが組織的犯罪処罰法に書いてあるように,「団体の活動として」というのが「団体の意思決定に基づく行為であって,その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう」ということになっておりまして,そのような実体を備えておるかどうかなど,正にこれもまた事実関係によって適否が決まってくるということになるわけであります。 ● 多分,条約上のネックがあって,難しいことを言ってしまうことになるかもしれませんが,実は先ほどの犯罪収益のところで議論したように,長期4年以上を入れることによって,本来全くなじみのない犯罪が入ってしまうということがあり得る。過失の共同正犯になるかという問題もありますけれども,偶発的な鎮火妨害のようなものまでが入ってしまうということについて,これは条約上から外すということは,全くできないものでしょうか。 ● 共謀罪についてですか。 ● 共謀罪について。長期4年というくくりをしますと,全部入ってまいりますね。 ● マネー・ローンダリングの場合には関連する犯罪を包括的に列記すればいいという条約上の手掛かりがあったのに対して,こちらはないということで,原則的にはできないだろうと思います。  いずれにしても,例えば過失犯につきまして共謀があり得るかといいますと,これは共謀というのは行為の遂行の合意でありまして,その行為には結果も含むということになるとすると,結果を含んだ過失犯を共謀すると故意犯になってしまいますので,おのずと共謀の概念のところで落ちてしまうのじゃないかなと思っておりますが。 ● 今の点,追加しますと,ここでは4年,一定の法定刑以上の罪の犯罪行為の遂行を共謀するということでありますから,共謀内容それ自体として,この法定刑要件,もちろん構成要件を満たす必要がございますので,その意味では過失犯ということで考えてまいりますと,そこで関係者が計画されたことというのは犯罪行為ではなかったと思われますので,その意味で共謀というもののこの書き振りの解釈から,その辺は外れてくることになるのではないかと思われますが。 ● もともと観念できないものを共謀の要件で削るというのは,論理が逆転しているのでして,そもそもそういうものに当たらない犯罪自体を対象とすること自体に私は問題があるのではないかと思っているのですが,その点はいかがでしょうか。 ● これは,共謀罪ということで今回御提示させていただいているものから,おのずから外れてしまっているということでございますので。その用語の意味等から,頭から射程に入らないのではないかと。法定刑云々の前の段階で,対象外になるということでございます。 ● もしそうだとするならば,当初から外していくというのが本来の在り方のように私は思えてしようがないのですね。一応構成要件としては規定されているけれども,それは共謀罪があり得ないから削るというのではなくて,もともと観念できないものならば外すべきじゃないかというふうに思うのですが。 ● 今の組織犯罪処罰法6条の予備罪のように,個別の犯罪についてそれの組織的共謀罪というものを規定していくアプローチをとるのであれば,おっしゃるとおり当たらないものには付けないということになると思うのですが,ここはもう少し一般的な形でこの共謀罪の枠組みを決めておりますので,しかもその解釈の中で,当然外れるもの,過失犯は外れていってしまいますので,それを明示的に外すということは,なかなかちょっと技術的にはできないかなと思っているところであります。 ● またさっきの問題に戻ってしまって申し訳ないのですが,先ほどから議論しているこの物質的利益を得る目的という,これは確かにおっしゃるように広いことを意味しているのだろうというふうに思いますが,国際的な場でいろいろ議論する場合に,やはりこういうものは純粋な宗教団体とか純粋な政治団体を引っかけるようなものはまずいという,そういういろいろな政治的な絡みから,あるいは宗教的な立場からある組織をねらうというようなことはそもそもおかしいということもあったりして,こういう目的を加えているのではないかというふうに思っているのですが,そういうことは全く関係ないですか。 ● 宗教とか何とかという点につきましては,条約の審議の過程では恐らく出てこなかったのじゃないかと思いますが,これはテロですね,テロは国連の場では別の委員会等で議論しているところでございまして,こちらのアド・ホック委員会の守備範囲という点は,組織犯罪,麻薬に端を発しているそちらの系列の組織犯罪ですので,主としてそのようなことを念頭に,このような目的,その中でも最大限広げた目的を規定してきたのではないかなと推察しているところでございます。 ● 今みたいなことを先ほどからなぜいろいろ問題提起をしているかというと,日本の組対法の場合には,そもそも色が付いていない−−最初から色が付いていてもいいのですが−−団体が,ある時期にある犯罪行為を組織的にやる,それが極めて重大な犯罪の場合には加重していく,こういうパターンになっているというふうに思うのですね。ところが国際的なのは,もう少し色がついている団体というふうにねらいを定めているのではないかと思って,先ほどからこの組織的な犯罪集団というのは日本の組対法の規定と違うのではないですかというふうにいろいろ質問しているのはそのことなんですね。  もし違っているとすれば,日本での組対法に当てはめるとすると,もう少し対象犯罪の規定の仕方なんかを変える,あるいは目的的なものを少し加えるとか,組織性を少し変えていくだとか,そんな何か工夫が必要になるのではないかと思っているのですが,いかがでしょうか。 ● 例えばドイツなどでは,結社の罪でございますけれども,あれはいわゆるテロリスト犯罪団体については加重処罰をしておるということでありまして,特定の団体を別途の犯罪処罰の体系にするという考え方はあり得るところではあろうかと思いますが,御承知のように我が国の組織犯罪処罰法は団体を規制しているものでも処罰しているものでもございませんで,そのような組織的な形態で行われる犯罪行為の違法性に着目して重い処罰を図る,その限界付けの中で団体概念が出てきているだけでございますので,その具体的な個別の犯罪行為の違法性の方からアプローチをしていくと,今の御指摘とは違って,現在の組織犯罪処罰法の枠組みの中で十分賄えるのじゃないかと考えるところであります。 ● 例えば,先ほど条約審議の過程でのテロリスト対策に特化したものとの関係という辺りで考えてまいりますと,現行の組対法というのは,そういうものは外す趣旨で作られているかというと,これはちょっと違う。枠組みとしては違うのではないかと。  逆に,どういう目的であれ,殺人,大規模なものも含みますでしょうけれども,いろいろな殺人を共謀したというときに,先ほどバランスということで申し上げましたのは,条約で付しておりますような目的のあるものに限るとしますと,本当に人を殺すためだけの組織的な共謀を行ったときにはおとがめなしでございますということになるわけですので,そのような法制というのは,国内法としてはいかがかというところを御理解いただきたいと思いますが。 ● 今までの御議論とは違う観点の御発言でも結構でございます。 ● 組織的な共謀というものが違法性が高いというふうになると,その共謀といっても一般的共謀ではありませんので,具体的な個別犯罪の共謀ということになるわけですから,そうなってくると,組織的に個別犯罪を行うこと,実行行為そのものの方も違法性が高いわけですね,普通の個人犯罪といいますか,そういう組織的でない犯罪と比べると重い。そういう論理でいくならば,前回組対法で議論した以上に,一般的に重いとなれば,前回議論した犯罪以外に,本来本犯も重くすべきだと,そういう中で共謀もやはり処罰すべきだと,こういう論理はある程度分からないことはないのですが,国際条約があるからといって,とにかく日本の4年以上の共謀はすべて重いのだという理屈付けで規定していくというのは,どうも納得できない。だから,そういう条約,もう調印しちゃったからしようがないのだと言われればそうかもしれないのですが,そこを工夫して何かできないかというのが,先ほどから言っていることなのですね。 ● おっしゃいますように,例えばイタリアをとりましても幅広くマフィア形態の犯罪,アメリカも同じでございますけれども,加重しております。これは,国際的な流れからいえば,日本もそういう選択を迫られているのかもしれません。市民の社会・経済活動を含めましてそういう組織犯罪から守るということが,今,国際的な最重要の課題であり,我々もその責務を果たさなければならないということだろうと考えております。したがいまして,○○委員御指摘のように,全体を今の国際的な潮流,組対法を御議論いただいたときにはこういう条約のない国際的なコンセンサスもなく行われた,ある意味,主として国内の暴力団と申しますか,国内立法事情が前面なり同列以上に出ていた,国際的な法的な枠組み,そういったものが形成されない前の御議論として,今の組対法が一部の犯罪について,余りにも法定刑が軽過ぎるのではないかと,国内法的に見ても余りにひどい,実態としても国民感情としても受け入れ難いというものについて,一部手直しをされたというのは,それはそれで正しいその時点における国内法制の在り方であるとは思われます。  ただ,今このような条約が現に国連の場でできているというその中で,日本が国際社会に対してどういう責務を果たすのかということを考えますと,○○委員がおっしゃるような全体上げてはどうかという視点というのも,それは当然出てくる考えだろうと。ただ,今回の提案といたしましては,条約で義務付けられている限度において,これは間違いなく世界各国違法性の高いものとして犯罪化を求めると,国際的にも犯罪化を求められるような類型でございますし,国内法的に見ましても,組対法で加重要件として考えられた中に違法性というものがあったと,それは共通するものがございまして,その限度で立法化を図ることとしてはいかがでしょうかということでございます。したがいまして,組織性のある犯罪全体を今回引き上げないからといって,共謀罪を作るのはおかしいというのは,全体の流れからいえば,むしろ逆ではなかろうかというふうに思われます。 ● 共謀罪を作ることがいいのかどうかということにはいろいろな議論があると思うのですが,やはり作るにしても,世界各国との歩調の中である程度限定して作った方がいいのではないかという観点からの意見が幾つか出ているのだろうと私は思うのであります。今回の条約の34条を見ますと,1項で原則的にその国の国内法の基本原則に従って作るという形にはなっているのですが,事実上組織性をかぶせれば,結局はすべてそれ以外のものについて共謀罪を認めるという形になることが,どうも原則と例外がひっくり返りはしないだろうかということで,先ほど来幾つかの意見を述べているのであります。  要するに,条約というものが,もともと日本がいろいろな形で国内法でいろいろな整備をしてきたものを大きく変えられることになりはしないかということを懸念して,先ほど来,私や○○委員が言っているとは思うのですが,それとの関連で,条約の20条というのがあるのですが,第1回の会議の際に○○委員の方から,この共謀罪についてはそれを摘発するためには捜査方法が変わるのではないかというような意見があり,○○関係官の方からは,現行の形のままでそれほど変わるとは思われないという御意見があったのですが,ここの20条の1項を見ますと,場合によってはこれは必要な措置をとるという形の規定があるので,これも場合によっては,今,義務的ではありませんけれども,将来的にはそういう方向に条約でなるという形になると,今度は刑事訴訟の根本が条約でまた変えられてしまうということになりはしないかということを懸念しているのであります。その辺りのことについて,事務当局はどのようにお考えでしょうか。 ● 今のところ,そういう条約,国際的な条約がございませんので,そこまでの義務,国際的なコンセンサスと申しますか,国際的な責務を我が国は負わされている状況にはないという認識で対応させていただいているということでございます。 ● 捜査方法の問題が出ましたので,ちょっと念のために確認させていただきたいのですけれども。  第1回の議論の中で,捜査方法にも新たなものが必要じゃないかという御質問がどなたかからあって,これは別途の問題で,今回の法整備そのもので図るものではないというようなことだったと思うのですけれども,これはそうなのだろうと思うのですけれども,念のために,多分今回の共謀罪ができますと,通信傍受法の3条1項3号ですが,「死刑又は無期若しくは長期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪が別表に掲げる罪と一体のものとしてその実行に必要な準備のために犯され,かつ,引き続き当該別表に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場合において,当該犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき」これは,傍受令状の前提となる前提犯罪ですけれども,この場合に結局傍受法の別表に掲げられている罪,これはほとんど重大な犯罪になると思いますので,この別表に掲げられている罪の共謀罪が成立する場合には,必ずということはないですけれども,かなりの場合が多分この3条1項3号の傍受令状の前提犯罪になってくるのかなという気がするのです。  それはそれで,このような形態の犯罪を処罰するということになった場合には,それなりの合理性があると私は考えておるのですけれども,念のため,解釈上の疑義を招かないために,そういう理解でよろしいでしょうか。 ● この通信傍受法の3条1項3号に掲げられております長期2年以上の罪,今回の共謀罪は5年と3年ですので,そこに当然当たるわけでございますので,他の要件に当たれば当たるというのは全くそのとおりでございますが,ここで言っている長期2年という年限が決められた背景としては,予備罪に2年のものが多いというのが一つ念頭に置かれていたということも言われておりますので,そういう意味でいきますと共謀罪もそういう性質の犯罪であると思います。 ● ありがとうございました。 ● それでは,この要綱についてまだ全体を通して論じ尽くしていない点もあると思いますので,次回,更にこの要綱についての2巡目の議論を続けるということにしたいと思います。  そこで,次回でありますが,引き続いて2巡目の議論の続行になりますが,これまでいろいろ皆さんからの御議論を伺っておりますと,要綱(骨子)について基本的な部分において強い御異論はないのではないかと思いましたけれども,改善すべき点があるとのご意見もあるようでもございますので,そういう問題点を客観化して,提案という堅い意味ではなくてもよろしいのでございますが,御異論についての内容を皆でよりよく理解し,そして議論するために,修正案というと大げさになりますけれども,何か御提案をお持ちの方,あるいは御検討中の方がいらっしゃいますれば,そういう御意見を検討事項という形でおまとめいただいて,事前に事務当局の方にお出しいただければ幸いです。それらの問題点を整理検討し,論点を明らかにするべく資料を出していただいて,それを一つの討議のたたき台にするというようにいたしますれば,かなり効果的,効率的に議論が進むのではないかという感じがいたします。部会の場にお持ちくださることも結構でありますけれども,事前に事務当局の方に問題点をお示しくだされば,事務当局としてまた検討するという作業ができると思われます。そういうわけで,次回にお持ち下さっても結構ですし,早めに何か適宜な方法で御提案くださってもよろしいと思いますので,御協力賜る方には是非そういう検討の材料を提示していただきたいと考えております。  次回,いろいろな議論が出るでありましょうから,その議論をまた資料化するなりして,それらを踏まえて第5回目,多分これが最終回になると思いますけれども,進め方を4回目の終わりに御提案することになるかもしれません。  次回の段取りといたしましては,今回の議論を続行するのですけれども,何か今までの議論を踏まえて,こういうふうな点をもう少し議論しようというようなことのご提案をいただければ,大変充実した議論ができるのではないかと考えまして申し上げた次第であります。  では,次回でありますけれども,11月21日木曜日,午後1時30分から行います。場所は,ここではなくて,法曹会館高砂の間をとってございますので,お間違えのないよう御参集賜りたいと思います。  本日はこれで散会いたします。どうもありがとうございました。